新型コロナウイルスと会計報告期限の延長

 

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、経済活動が中断または縮小され、失業給与の請求件数が急激に増加している。これを見ると、最悪の場合、今年の韓国経済は1998 年のアジア通貨危機に匹敵する大量失業が発生する危機に瀕しているものと見られる。

金融当局と国税庁などでは毎日のように対策を発表している。大統領と関連省庁の長官はこれまで計５回の非常経済会議を開催し、緊急かつ先制的な非常対応措置を優先的に推進して来た。

こうした中、政府は４月22 日に第５次の非常経済会議で、同会議の傘下に常時の危機管理·対応の為の非常経済中央対策本部（中対本）を設置するなどの一種の総合対策を発表した。

今まで非常経済会議では５回にわたって◇32 兆ウォン（約２兆8,000 億円）の実体被害対策◇100 兆ウォンプラスアルファの金融安定対策◇緊急災難支援金など20 兆ウォン規模の補強対策◇企業安定化支援◇雇用安定支援対策――などの緊急かつ救済的な性格の強い非常対応措置を発表して来た。

しかし、今後、世界的な景気低迷による雇用·輸出など実体経済への影響が本格化し、金融市場に対する不安の再燃も懸念されるだけに、中対本の設置と運営も、政府レベルで危機対応および経済回復措置を総合的かつ迅速にとる上で効率的な方法と思われる。

このような新型コロナの流行は企業の会計部署にも深刻な影響を及ぼしている。資産総額および売上金額などのを基準にして一定基準以上の会社は決算日以後３カ月以内に決算財務諸表と公認会計士の監査報告書を証券先物委員会または証券取引所に提出しなければならない。

四半期、上半期報告書など決算報告書提出の遅延は資本市場法上、行政制裁（課徴金など）対象であり、上場企業の場合、韓国取引所の管理銘柄指定事由に該当する。

しかし、新型コロナの流行により海外に所在している子会社などの決算が遅れが生じ、多くの会社で財務諸表、監査報告書、事業報告書などを３月30 日の内に期限内に提出するのは困難だった。

これを受け、証券先物委員会は３月25 日に定例会議を開き、63 社とその監査法人（36 社）に対して行政制裁を免除し、事業報告書などの提出期限を５月15 日まで延長した。韓国取引所も上場企業35 社に対し、事業報告書など提出遅延による管理銘柄指定などの措置を猶予した。

しかし、全世界的に新型コロナの拡散は続いており、１～３月期の報告書の提出期限（５月15 日）までに報告書を提出できなくなる会社が多く発生する恐れがある。

したがって、金融監督院は会社の申請により、審査を経て行政制裁を免除し、上場会社に対しては管理銘柄指定を猶予する措置を発表した。

これによって、上場会社の太陽金属工業などの24 社が制裁免除を申請している。新型コロナによる海外関連会社の決算遅延で、韓国本社の決算遅延が認められれば、ほとんどの会社が制裁免除対象になると思われる。制裁免除を受けた会社は報告書の提出期限が６月15 日まで延長される。また、追加的な期間が必要な場合は個別的に当局に申請しなければならない。

海外投資による国際的な分業体制の弱点がまたもや現われた。ヒトとモノの移動制限に加えて、管理的な面でも国際分業体制の弱点が浮き彫りとなった。

コロナウイルス以後の国際分業体制は以前とはかなり違ってくると思われる。 

 

<筆者紹介>

信和会計法人は、2003年設立され、韓国進出を目指している企業、または進出済みの日本企業向けに、法人の設立に関するご相談及び設立代行、会計、税務、給与サービス、支給代行サービス、会計監査、デューデリジェンス(Due Diligence)サービス等を提供しております。大手会計法人の日本事業部出身のベテラン会計士を中心に設立され、豊富な経験とノウハウを活かし日系企業のクライアント様に最善のサービスを提供しております。

今回の担当：張太日(チャン・テイル)公認会計士(韓国)。1963年生まれ。サンダーバード(Thunderbird)経営大学院でMBA取得。1989年～2003年に英和会計法人(現在、Ernst&Young韓英会計法人）にて勤務。1994年～1995年に日本太田昭和監査法人(現在、新日本有限責任監査法人)にて派遣勤務。現在は信和会計法人の国際部代表。(TEL: 02-555-9211/E-mail: tichang@swacc.com)

 

<出典：NNA ASIA アジア経済ニュース、2020.05.14 https://www.nna.jp/>